科学研究費助成事業基盤研究S
Pan-Arctic Water-Carbon Cycles
北極海-大気-植生-凍土-河川系における水・物質循環の時空間変動
永久凍土の融解は、凍土中に封入されていたメタンなどの温室効果ガスを大気へ放出させ、全世界の気候に影響します。
したがってそれらの現状把握・将来予測を行うことは、日本を含む全世界の人類にとって必要不可欠な研究です。
北極域の温暖化や、北極海氷の縮小の将来予測をするためには、水循環や物質循環を統合的に取り扱って研究する必要があります。
たとえば北極海の海氷縮小に伴う大気中の水蒸気の流れ方や降水量の変動、北極域を取り囲む陸域の植生状態と凍土状態と河川水量など、様々なことを考慮に入れなければなりません。
しかし、北極海―大気―植生―凍土―河川系全体を扱う水循環・炭素循環の統合研究は皆無であったため、本研究は始まりました。
“Arctic is transformed”
「北極は変質した」
Arctic Council SWIPAのレポートより
北極の海氷はユーラシア大陸側で年々縮小しています(図1)。
東シベリアでは、2000年代半ばに夏季降水量が極端に増加したため、永久凍土の融解が加速して地表が湿潤化するとともに(図2)北極海への河川流出量が増加しました。


一方、その南に位置するモンゴルでは、同時期に夏季降水量が激減し、
干ばつが長年続いて資源動物やその利用する人々に大きな影響が出ました。
このように、シベリアやモンゴルを含む北ユーラシアでは、北極海氷の縮小に端を発した大気-陸域水循環の大変動によって、この地域に広く分布する永久凍土の状態と、タイガやツンドラに代表される植生状態が変化しています。
言わば、北極海-大気-植生-凍土-河川系の大激変です。
私たちがこの研究で作成する湛水域時系列マップと植生変化域時系列マップを用いて、過去から現在に至る変遷と将来を予測することは、気候変化予測の不確定性を改善させます。
それらを用いて作成された温室効果気体の放出・吸収量の時系列マップは、
北極域温暖化のメカニズム解明に大きく貢献することでしょう。