第16回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2021年10月6日(水) 10:30〜12:00

発表者
植山雅仁(大阪府立大学 生命環境科学研究科)

題 目
高緯度生態系の炭素・水フラックスの地図作成に向けた最新の動向

要 旨
 地上観測データのアップスケールに基づくCO2フラックスの広域化に関するレビューをする。レビューでは最近発表されたABCfluxデータベースを用いた広域化研究(Virkkala et al., 2021a, b)を中心に紹介する。この研究(Virkkala et al., 2021a)では、北極域・北方生態系において1990-2015年の期間に渦相関法とチャンバー法で実施されたCO2フラックス(NEE、GPP、生態系呼吸量)のデータを148サイトから収集し、年間値および生育期積算値の静的な地図を1 km空間解像度で作製している。広域化には人工衛星データ、気候データ、GISデータ(植生、土壌などの情報)を複数の機械学習などの回帰モデルに入力し、アンサンブル平均することで地図化している。利用されたデータと更なる追加データは、フラックス・データベースとして月別値が公開されている(Virkkala et al., 2021b)ため、PAWCsプロジェクトでも利用可能である。今後の展開として、森林火災・凍土融解などの攪乱情報の考慮、水・エネルギーフラックスの広域化、陸面モデルの検証に向けての課題などの話題を提供する。地上観測の統合解析の現状の最前線から、一歩前に進むための議論の材料を提供したい。

第15回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2021年9月8日(水) 10:30〜12:00

発表者
鈴木和良(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

題 目
シベリア北東部に位置するコリマ川の流量変動に対する永久凍土融解の影響

要 旨
 永久凍土の温暖化に伴い、シベリア北東部のコリマ川の観測流量は1930年代から2000年にかけて減少しているが、そのメカニズムはよくわかっていない。コリマ川の水文変化を理解するためには、活動層厚の変化を把握するとともに、長期的な水文気象要素を解析することが重要である。本研究では、水文・生物地球化学結合モデル(CHANGE)を用いてコリマ川流域の活動層厚と水文気象要素のシミュレーションを行い、それらの結果を衛星データや観測データで検証を行った上で、1979年から2012年までの水文変化を明らかにした。
 永久凍土の温暖化による活動層厚の増加は、夏季降水量の増加に反して夏季流出量を抑制した。この結果は、陸水貯留量アノマリー(TWSA)の増加が蒸発散量の増加に寄与し、植物の土壌水分ストレスを軽減した可能性を示唆している。また、TWSAを介して降水量と蒸発散量の間には2年のタイムラグがあることが確認された。この結果は、永久凍土域における土壌の凍結融解プロセスが有意な気候メモリー効果をもたらすことを示唆する。
 本研究で得られた成果は、北極域の将来変化の理解と適応策の策定に有益であると考えられる。

第14回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2021年8月4日(水) 10:30〜12:00

発表者
小谷亜由美(名古屋大学 生命農学研究科)

題 目
東シベリアの森林生態系における春季の季節進行指標の年々変動

要 旨
 高緯度地域の冬季から春季への季節進行は、日射量の増加と大気循環場の変化への陸面応答として、融雪、凍結土壌の融解、植物の開花・開葉などとして顕れる。近年、高緯度陸域生態系ではこれらの現象の早期化による、植物生長期間や生態系生産量への影響が観測されている。本研究では、東シベリアの森林生態系の春季の季節進行指標の年々変動とその対応関係を明らかにするため、2か所のカラマツ林観測サイトにおける、融雪、凍土の季節融解、カラマツの展葉、蒸発散・CO2フラックスのオンセットの対応関係を比較した。春季には林内消雪(4月下旬-5月上旬)に続いて、凍土表層の融解(5月上旬)、カラマツの展葉および総一次生産量(GPP)の増加開始(5月上・中旬)、生態系正味CO2吸収の開始(5月中旬)となった。蒸発散はカラマツ根系中心の20cmの融解時期に、GPPはキャノピー展葉時期の前後に増加を始めた。スパスカヤパッドでは、消雪とカラマツ展葉時期はそれぞれ10年あたり約6日と約9日早くなり、4-5月気温の上昇と対応していた。しかし、凍土表層の融解時期やCO2吸収開始時期には有意な変化傾向はみられなかった。2005-2008年に生じた活動層湿潤化による季節融解の促進と下層植生成長によるフラックスソースの変化が重なったためと考えられる。

第13回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2021年7月7日(水) 10:30〜12:00

発表者
飯島慈裕(三重大学 生物資源学研究科)

題 目
北極域植生地図素材の紹介と植生変化域マップ作成の指針

要 旨
 ロシアならびに環北極域における、公開されているGISベースの植生地図について、その特徴を調べた。ロシア北方林では、2012年のロシア全土における若齢林(樹齢27年未満の森林)の分布とその推定林齢を500mの解像度(MODISとLANDSATを使用)を示した森林分布図(Distribution of Young Forests and Estimated Stand Age across Russia, 2012)がある。これは、森林火災等の森林かく乱と、その後の森林回復状況を示す図として参照できる。また、ロシアの55か所の解析地域について、LANDSATによる30m解像度でのかく乱状況地図(Russian Boreal Forest Disturbance Maps Derived from Landsat Imagery, 1984-2000)が作られている。これは1984~2000年の2時期以上での変化域を地図化してものであるが、限られた年ごとの比較結果であるため、解像度の割に情報がやや乏しい。環北極では、タイガ―ツンドラエコトーン図(Tree Canopy Cover for the Circumpolar Taiga-Tundra Ecotone: 2000-2005)が作られている。これは60~70°Nの2000~2005年平均の500m MODIS Vegetation Continuous Fields (VCF)による樹冠被覆率からエコトーンのパッチ位置を区分した図であり、今後の地域的な植生変化域として森林の北上傾向を検討する上での参照データとして有用と考えらえる。2010年以降の情報を加えた北極域全体をカバーした使える植生変化域地図はいまだ無いようである。PANGEAにはCentinal-1による植生高データなどがあるが、アラスカやシベリアの限られた地域の図があるのみである。また、北極評議会傘下の北極動植物相保全作業部会(CAFF)は、ツンドラ植生図(Circumpolar Arctic Vegetation Map)や植生データをまとめたArctic Vegetation Archive (AVA)を公開しているが、北方林まで含めた統合的な植生変化情報としてはまとめられていない。
 衛星データを利用した北極域の植生変化域マップの作成案としては、SAR衛星による水域変化の抽出と連動させた高分解能(10m)の変化域の検出が有効であると考える。北方林からツンドラにかけての植生変化は、湖沼の形成と消滅や洪水履歴などの水文環境変化と強く連動するためである。この時間分解能は、衛星データに基づく場合は10年程度ごとが妥当といえる。これまでに、レナ川中流域での2007年~2017年のALOSシリーズのHH偏波の後方散乱強度画像から、森林かく乱域、回復域、水域拡大域、縮小域等の高分解能の検出の可能性が示されている。これをベースとして、低解像度画像(例えばAMSR-2の植生水分量等)とのデータフュージョンによって、広域化を図るなどの検討が必要と考えられる。

第12回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2021年6月2日(水) 10:30〜12:00

発表者
近藤雅征(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

題 目
陸域炭素収支の現状と今後の行方:亜寒帯と熱帯の役割

要 旨
 化石燃料の燃焼やセメント生成などの人間活動により大気に排出されるCO2は今日の気候変動の主要な原因である。人為起源のCO2排出量は、産業革命以降、増加の一途を辿っている。特に1960年以降の増加は顕著であり、2010年のCO2 排出量は1960年当時の約5倍にまで達した。CO2 排出量の増加が加速する中、主要各国は1997年の京都議定書、2015年のパリ協定においてCO2 を含む温室効果ガスの削減目標を掲げたが、具体的な成果は未だ見られない。
 大気中のCO2 濃度は、過去60年で約100 ppm増加しており、これは人為的なCO2 の排出によってもたらされた結果である。しかし、同時に、自然界よって緩和された結果としても捉えることができる。これは、人為的に排出されたCO2 のうち、大気に貯留するのは4割ほどで、残りが陸域と海洋に吸収されているからである。過去60年間の活発な人間活動と並行し、大気-陸域間、大気-海洋間の自然相互作用は、CO2 の吸収を促すかのように変動してきた。大気中のCO2 濃度の増加に伴い、陸域では森林や低木植物による光合成活動が活発化し、海洋表層では大気とのCO2 濃度差が卓越し、海水へのCO2 の溶解が促進された。その結果、陸域・海洋への正味のCO2 吸収量は1960年から2009年の間に2倍ほど増加したと報告されている。更に、最近の大気観測の研究によると、大気中のCO2 濃度の増加率(CO2 Growth Rate)は2000年以降に安定の兆しを示している。これらの結果は、CO2 濃度変動における陸域と海洋の役割が、近年、一層重要になってきたことを示唆している。
 本研究では、陸域における炭素収支が吸収に向けて増加している原因について、まず、現状解明されている主要なプロセスについて解説する。次に、全球規模の炭素吸収量の増加現象において亜寒帯と熱帯がこれまでどのような貢献をしてきたのかについて解説すると共に、今後起こりうるこれらの地域におけるCO2 吸排出トレンドの逆転現象について考察を行う。

第11回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2021年5月12日(水) 10:30〜12:00

発表者
田代悠人(東京農工大学 連合農学研究科)(現:名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

題 目
衛星データを用いたアムール川中流域における永久凍土湿地の空間分布推定および河川溶存鉄濃度に対する重要性

要 旨
 世界でも有数の豊かな海として知られるオホーツク海の生態系は、アムール川がもたらす溶存鉄によって大きく支えられている。しかしながら、アムール川流域内における溶存鉄の供給源や挙動に関する知見は不足しており、特に永久凍土が存在する中上流域に関してはほとんど理解されていない。本発表では、アムール中流域において溶存鉄供給源と考えられる永久凍土湿地(ロシア語でMariと呼ばれる)の空間分布を現地調査とLandsatデータ解析によって推定し、この湿地の空間分布と河川の溶存鉄濃度との関係性を調べた結果について報告する。
 7月のLandsatデータを解析した結果、現地で永久凍土湿地Mariの存在を確認した場所のNDVIは0.376~0.442、NDSIは0.376~0.411の範囲にあり、森林や氾濫原が示した範囲とは明らかに異なっていた。この結果を調査地一帯に外挿し(これらの範囲を満たす場所を湿地Mariと判別)、湿地の空間分布図を作成した。さらに、現地で溶存鉄濃度を調べた24河川の流域内の湿地面積率を求めた結果、湿地面積率が高いほど溶存鉄濃度が上昇する正の相関が見出された。この結果は、アムール中流域において永久凍土と共に成立する湿地Mariがアムール川への重要な溶存鉄供給源であることを示すだけでなく、将来的な永久凍土融解がこの地域の河川溶存鉄濃度に影響することを示唆する。

第10回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2021年4月7日(水) 10:30〜12:00

発表者
佐藤友徳(北海道大学大学院地球環境科学研究院)・玉本 誠(北海道大学大学院環境科学院)

題 目
衛星データを用いた過去34年間の全球の植生活動と気象の関係

要 旨
 近年の急激な温暖化にともなう気候変動により植物の成長や開花時期に変化があることが指摘されている。一方、植生と気象の関係が長期的にどのように変化しているのかは必ずしも明らかではない。本研究では、気象の年々変動が植生活動に与える影響を調べること、およびそれが過去から近年にかけてどのように変化したのか調べることを目的とする。植生活動は衛星データから得られる正規化植生指数(NDVI)、気象要素は再解析データから得られる地表面気温、降水量、日射量を使用した。解析対象期間は1982年から2015年で、データの時間間隔は1カ月、空間解像度は0.5度である。すべてのグリッドに対して月ごとに平年値からの偏差を用いて標準化を行った。植生データは各年のNDVI最大値(以降NDVImax)を抽出し、NDVImaxとなる月の気象要素についてグリッド毎に相関分析を行った。
 カザフスタンや南アフリカでは地表面気温および日射量とNDVImaxは負の相関がみられたが、降水量とNDVImaxは正の相関がみられた。すなわち、これらの地域では降水量の増加によって植生活動が活発化することを示している。次に、解析期間中で植生活動と気象要素の関係がどのように変化してきたのか調べた。地表面気温や日射量とNDVImaxはカザフスタンや南アフリカ、オーストラリアでは1990年代から2000年代にかけて負の相関が強まった。降水量とNDVImaxはカザフスタンや南アフリカでは1990年代から2000年代にかけて正の相関が強まるが、西シベリアは2000年代の方が相関が弱い。したがって、カザフスタンや南アフリカでは降水量が増加または地表面気温や日射量が減少するほど植生活動は活発になり、2000年代はその関係が強まる。一方で、西シベリアや中央シベリアでは降水量が減少または地表面気温や日射量が上昇するほど植物は成長しやすく、2000年代はその関係が弱まったと考えられる。

第9回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2021年3月3日(水) 10:30〜12:00

発表者
永野博彦(名古屋大学宇宙地球環境研究所)

題 目
湿潤イベントによる撹乱の程度が異なる北方カラマツ林では正規化植生指数の長期変化傾向も異なる

要 旨
北半球の高緯度生態系では、正規化植生指数(NDVI)の上昇ないし減少傾向が数多く報告されている一方、統計的に有意な上昇・減少傾向を示さない高緯度生態系も多く存在している。本研究では、東シベリアの湿潤イベントに伴う撹乱を受けたカラマツ林(Spasskaya Pad)と撹乱を受けていないカラマツ林(Elgeeii)を対象に、MODISで観測された2000年から2019年までのNDVIの時系列変化を解析した。Elgeeiiでは、5月および6月-8月のNDVIが有意な上昇傾向を示したが、Spasskaya Padではいずれの季節のNDVIも有意な変化傾向を示さなかった。さらに、NDVIと気温・降水量との関係を2つの森林で比較すると、ElgeeiiのNDVIは気温と降水量に強く影響されていたが、Spasskaya PadのNDVIは気温や降水量と明確な関係性を示さなかった。以上より、NDVIの長期変化傾向が統計的に有意でない生態系であっても、撹乱などにより生態系の構造や機能は大きく変化しており、明確な変化傾向を示す生態系とは環境応答も大きく異なっている可能性が示唆された。

第8回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2021年2月3日(水) 10:30〜12:00

発表者
市井和仁・川瀬 陸(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

題 目
2020年春のシベリアの異常高温による地表面環境の変動解析

要 旨
 シベリアは、地球温暖化などの気候変動が最も顕著な地域の一つである。2020年には、冬から春にかけて異常高温が続いており、異常高温が地表面に与える影響を把握することは重要であると考えられる。
 本研究では、地球観測衛星Terra, Aquaに搭載されたMODISセンサ―データを主に利用し、2000-2020年の期間における2020年特徴を解析した。2020年の春(3-6月)においては、西~中央シベリアにおいて、5Kを超える地表面温度の高温偏差を検出した。この温度異常は例年よりも早い植生指標の上昇をもたらし、トータルで光合成量は例年よりも非常に大きくなっている。
 今回は、研究の中間報告とし、今後は、河川流出量の解析や、GOSATなどを持ちいたCO2濃度, CH4濃度による解析、数値モデルを用いた CO2、CH4収支の解析を進める必要がある。

第7回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2021年1月6日(水) 10:30〜12:00

発表者
中村 哲(北海道大学大学院地球環境科学研究院)

題 目
北極温暖化が強化するユーラシアの熱波と東アジアの豪雨

要 旨
 2020年ユーラシア大陸は冬から夏にかけて持続する前例のない温暖な気候を経験した。特にシベリアでは、6月20日のベルホヤンスクで38.0°Cの猛暑を記録したように、顕著な熱波が観測された。同時期、東アジアでは中国南部と日本西部で豪雨が起こり、広範囲に生じた深刻な洪水が多大な社会的損失をもたらした。
 北極圏の急速な温暖化は、地球平均の2倍の速度であり、ユーラシア大陸での熱波の増加に強く関係している。近年の東アジアにおける大雨の大幅な増加についても、このような北極圏の急激な温暖化の影響を考慮する必要がある。
 本研究は、ユーラシア大陸の東端で夏季に発生する熱波と豪雨との関係を調べた。その結果、大気内部変動(ブロッキング高気圧)と外部強制(温暖化)に伴う異常の両方が、熱波と豪雨に寄与していることがわかった。現業予報モデルによる1ヶ月アンサンブル予報では、ブロッキングが発達するメンバーほど豪雨の予測精度が高くなる。また北極域のみを2K昇温させた実験では、極東域の高気圧傾向が強まるほど、東アジアの豪雨も強まることが示された。
 特に後者は、近年の北極域の昇温傾向をよく表現しており、これらの地域で今後も深刻な災害が増加することを警告している。