第6回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2020年12月2日(水) 10:30〜12:00

発表者
朴 昊澤(海洋研究開発機構・北極環境変動総合研究センター・ユニットリーダー代理)

題 目
北極海の海氷減少と気温上昇に及ぼす河川水熱の影響評価

要 旨
 北極海に流入する河川熱流入量は、沿岸の海氷が解け始める初夏に最大となり、従来から推察された海氷減少への河川水熱の影響が最近ではより顕著になったと考えられる。しかしながら、初夏に流入した河川水の多くは海氷の下に潜って海洋表層水と混合するため、河川水に起因する熱の広がりを船舶や衛星で観測することが困難であった。また河川水の流量と水温の現場観測はアクセスの難しさなどから主要な河川に限られるため、北極域の広範囲を網羅する河川熱流入量の推定はこれまでされていなかった。そこで、新たに河川水温の計算を組み込んだ陸面過程モデルCHANGEを用いて、北極域における河川熱流入量の変化を広範囲かつ定量的に評価し、そのデータを海氷海洋結合モデルCOCOの境界条件として与える数値実験を行った。1980年から2015年までの過去36年間を対象とした解析の結果、北極海の海氷が地域的に最大10%以上薄くなるだけの寄与を河川熱流入が持っていることを定量的に示した。このプロセスには、北極海に流入した暖かい河川水が海氷底面を融かすのに加えて、アイスアルベドフィードバックの効果も含む。さらに、海氷縁が後退した後に暖められた海面から大気に放出される顕熱・潜熱エネルギーが増加し、それらが夏季の海上気温を過去36年間で0.1℃上昇させたことも定量的に評価した。これらの解析結果は、「気温上昇に加えて河川水の熱が加わることで北極海の海氷がさらに後退し、海洋−大気間の熱交換が活発化することでさらに気温が上昇する」という新たに提唱するフィードバックプロセスが北極温暖化増幅の一部を担っていることを意味する。
 セミナーの後半で、レナ川の河川流出に対する融雪水、暖候期降雨、地下氷融解水の寄与率を推定した初期結果についても紹介する。

第5回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2020年11月4日(水) 10:30〜12:00

発表者
小林洸太(名古屋大学宇宙地球環境研究所 水文気候学研究室 修士2年)

題 目
東シベリア・レナ川流域における冬季の河川流出量と永久凍土との関わり

要 旨
 環北極域では、1980年代以降冬季の河川流出量が増加傾向にある。従来、環北極域における河川流出量と融雪水との関係を調べた研究は多かったが、冬季の河川流出量と永久凍土との関わりについて研究した例は非常に少なかった。年間の河川流出量に占める割合は少ないものの、冬季の河川流出量は永久凍土との関わりを理解する上で重要であり、地球温暖化に代表される気候変動が永久凍土や河川流出に及ぼす影響を考察する上で非常に重要である。そこで本研究では、人為的なダムの影響が少なく、気候変動の影響が評価可能な東シベリア・レナ川流域を対象に、冬季の河川流出量と永久凍土との関わりを調べることを目的として解析を行った。解析には陸面過程モデルCHANGEと河川流路網モデルTRIP2を用いた。また、WFDEI(WATCH Forcing Data ERA-Interim)の気象データとGRDC(Global Runoff Data Center)の河川流出量データを用いた。
 1979年から2016年までの冬季の河川流出量のトレンド解析を行った結果、流域のほぼ全域で流出量が増加傾向にあることが確認できた。また、河川流出のインプットとして重要な正味降水量(降水量-蒸発散量)のトレンド解析を行った結果、夏季に増加傾向を示した。そこで、夏季の正味降水量と冬季の河川流出量のグリッド毎のラグ相関をとった結果、8月の正味降水量と冬季(12月~2月)の河川流出量の相関が高く、8月の降水量が冬季の河川流出量に寄与していることがわかった。次に、その要因を調べるために、夏季から秋季にかけて(6月~11月)の融解深と冬季の河川流出量のトレンドの関係性を見たところ、不連続永久凍土帯(レナ川上流域)のレナ川近傍においてのみ、夏季から秋季にかけての融解深と冬季の河川流出量のトレンドに正の相関が見られた。この理由として、不連続永久凍土帯のレナ川近傍では活動層内の地下水(凍土上地下水)が河川につながりやすく、冬季であっても地下水が河川に流出しやすいことが考えられた。その不連続永久凍土帯における正味降水量と冬季の河川流出量のトレンドの関係を確認したところ、夏季の正味降水量が冬季の河川流出量の増加に寄与する可能性とともに、地下氷融解水の寄与の可能性も見出された。
 今後は、表面流出・基底流出と融解深との関係を確認していきたい。

第4回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2020年10月7日(水) 10:30〜12:00

発表者
細谷 篤志 (千葉大学環境リモートセンシング研究センター 修士2年)

題 目
InSARによるモンゴル ハンガイ山脈周辺における地表面変動解析

要 旨
 昨今の気候変動により、モンゴルでは気温の上昇や降水量の減少が起きている。これに伴い土壌が乾燥し、家畜の餌となる牧草の成長不良が見られ、家畜に十分な草を与えられずゾド(乾燥した夏の後に厳しい冬が続く気象状況)により死亡する問題が発生している。モンゴルでは国土の約63%が永久凍土に覆われ、水資源の供給の上で重要な役割を果たしている。これまで光学センサーや現地調査による永久凍土層の熱変動や分布といった研究は行われているが、SAR衛星を用いた永久凍土層の変動については研究されていない。そこで本研究では、モンゴル域においてSAR衛星を利用した永久凍土層の変動を試みた。具体的には、ハンガイ山脈周辺 チュルートにおける地表面の季節変動と経年変動をC-band Sentinel-1とL-band PALSAR-2の干渉画像を作成し、比較した。
 Sentinel-1による時系列解析では、5月から活動層が融解し沈降し始め、10月に凍結し隆起し始める傾向が見られた。またPALSAR-2による季節変動と比較すると、沈降量に違いはあるものの、変動箇所には類似性が見られた。PALSAR-2の経年変動では、年間で-5~3 cm/year程度の変動が得られた。変動箇所としては、主に河川や湖畔周辺で沈降が見られた。また一部ピンゴと思われる隆起が確認できたが、過去の研究でもともとサーモカルスト湖があった場所であったため、排水したのち隆起していっているのではないかと思われる。Sentinel-1との比較では2019年から2020年にかけての経年変動は類似性が見られるが、2017年から2019年にかけての経年変動では見られなかった。
 発表では今後の光学センサーとの比較検証や干渉SAR時におけるGCP点などについて議論を深めたい。

第3回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2020年9月2日(水) 10:30〜12:00

発表者
金森 大成 (名古屋大学宇宙地球環境研究所 研究員)

題 目
東シベリアにおける近年の夏季降水量の増加傾向に対する温暖化の影響

要 旨
 東シベリアでは2000年代に夏季降水量が顕著に増加した.この原因として,地球温暖化によって北極海のユーラシア大陸側で夏季に海氷が大きく縮小したことが考えられている.一方,この地域の降水量と関係するサブポーラージェットの経年変動が近年変調していることも報告されている.しかしながら,降水量変動に与える両者の関係は未解明である.そこで本研究では,大規模アンサンブル気候実験データd4PDFを用いて,東シベリアの夏季降水量の増加に対する年々変動と長期変化傾向の影響を明らかにするための解析を行った.
 夏季降水量の過去再現実験における線形トレンドのアンサンブル平均を見ると,東シベリアから極東域にかけて,1990–2010年の20年間に有意な夏季降水量の増加傾向が見られた.この変化傾向は観測データと整合的であった.一方,非温暖化実験のアンサンブル平均には有意な降水量増加傾向は見られなかった.また,メンバー間の線形トレンドの空間構造には大きなバラツキが見受けられた.そこで過去再現実験の100メンバーの降水量の線形トレンドにEOFを適用し,卓越する空間パターンの抽出を行った.その結果,EOF1では,東シベリアから極東域,およびモンゴルから東北アジアにかけて,南北に変化傾向の符号が逆転するパターン(南北パターン)が抽出された.EOF2ではシベリアにおける東西パターンが,EOF3ではサブポーラージェット上での波列パターンがそれぞれ抽出された.EOF1~3で抽出された空間パターンを用いて,PCスコアから東シベリアで有意に降水量の増加傾向を示すメンバーの抽出を行った.抽出されたメンバーの両実験における線形トレンドのコンポジット平均の差を見ると,EOF1では,非温暖化実験と比較して南北の気圧シーソーパターンが強化され,西シベリアからの水蒸気流入の増加が降水量の増加傾向に寄与していた.そしてEOF2では,シベリアにおける東西の気圧シーソーパターンが強化されることにより,EOF1と同様に西シベリアからの水蒸気輸送量が増加していた.一方,EOF3ではサブポーラージェットの変動に伴い,低緯度側からの水蒸気輸送量の増加が,東シベリアの夏季降水量の増加に寄与していることがわかった.
 発表では近年の夏季降水量の増加傾向について,大気循環場の数十年規模変動との関係についても議論を深めたい.

第2回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2020年8月5日(水) 10:30〜12:00

発表者
水落 裕樹 (産業技術総合研究所 地質調査総合センター 研究員)

題 目
光学・マイクロ波衛星データのシナジーによる東シベリアにおける湛水マッピング

要 旨
東シベリアにおける水循環を把握するうえで表面湛水の時空間動態を高解像度・高頻度に把握することは重要である。広域定期観測に有用な手段として、これまで光学衛星センサや衛星搭載マイクロ波放射計・レーダー等を用いた湛水マッピングが研究されてきた。それぞれの衛星センサには観測解像度・観測頻度・湛水への感度などに一長一短があり、複数の異なる衛星データの統合利用(データフュージョン)の重要性が認識されてきている。 本研究ではレナ川やサーモカルスト湿地を含むSpasskaya Pad研究林周辺地域を対象とし、機械学習手法を用いた、光学衛星データ(MODIS)と衛星マイクロ波放射計(AMSR2)のフュージョンを試みた。2種類の機械学習(Random Forest, pix2pix)により、相対的に解像度は高いものの観測頻度で劣るMODISの欠測データをAMSR2データから予測することで、2012年~2018年までの500 m解像度の湛水マップを毎日得ることができた。Random Forestの変数重要度の分析によれば、凍結-融解に関連する季節サイクルを表現するうえではDOY(day of year)が主要な役割を果たしていたものの、河川・湿地における湛水の変動を表現するにはAMSR2から計算した水指数が相対的に重要となることがわかった。一方、pix2pixによる予測では、チューニングが不完全であるためか、Random Forestによる予測と比べ季節変動がうまく表現しきれなかった。また、いずれの手法においても、過去に事例の少ないイレギュラーな湛水イベント(おそらく河川氾濫)では予測誤差が大きくなることが分かった。イレギュラーなイベントを除く各手法の湛水抽出における相対RMSEはそれぞれ18%, 27%となった。今後のモデル研究との融合等を見越し、適切な対象地域・期間・マップの精度等について議論を深めたい。

第1回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2020年7月1日(水) 10:30〜12:00

発表者
永野 博彦 (名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教)

題 目
NDVIとCO2吸収活性の関係は空間的にどの程度変動するのか?:東シベリアの2つのカラマツ林における比較

要 旨
人工衛星で観測されたNDVIは、CO2動態予測モデルの重要な入力値であり、地上観測された生態系のCO2取り込み速度と、概ね正の相関関係を持つ。一方、CO2取り込み速度とNDVIの関係性が空間的にどの程度変動しているか、についての理解は不十分である。本研究では、東シベリアのカラマツ林2か所(Spasskaya PadおよびElgeeii)を対象に、渦相関法で地上観測されたCO2フラックスデータと各カラマツ林2km四方を対象にMODISで測定されたNDVIデータを使い、日中のCO2取り込み速度とNDVIの関係を Spasskaya Pad と Elgeeii で比較した。2000年から2019年までの各月のMODIS NDVI、およびSpasskaya Padでは2004年から2015年、Elgeeiiでは2010年から2017年の4-9月に測定された日中のCO2フラックス30分値を解析に使用した。いずれのカラマツ林においても、NDVIの春から夏にかけての上昇に伴い、日中のCO2取り込み速度は指数関数的に上昇した。ただし落葉期の9月において、NDVIの低下に対するCO2取り込み速度の低下が、Spasskaya Pad よりも Elgeeii で緩やかであった。また、CO2取り込み速度の長期変動に着目すると、Spasskaya Padでは4月および7-9月に有意な減少傾向であった一方、Elgeeiでは4-6月の減少傾向に加え、7-9月に有意な増加傾向を示した。NDVIは、Spasskaya Padでは8月に、Elgeeiiでは5-8月に有意な上昇傾向を示した。以上より、季節変化に伴うNDVI変化とCO2取り込み速度変化の関係は2つのカラマツ林同士で概ね共通していたが、落葉期や長期間の変動ではNDVIとCO2吸収活性の関係性がカラマツ林同士でも一致しない可能性が示された。発表では、追加解析の結果も交え、議論を深めたい。