北極海-大気-植生-凍土-河川系における水・物質循環の時空間変動
科学研究費助成事業基盤研究S 大区分K(科研費HPにおける概要はこちら)
世界的環境問題のひとつである永久凍土の融解は、凍土中に封入されていたメタンなどの温室効果気体の大気への放出を加速させ、全世界の気候に影響します。
したがって、永久凍土が存在する環北極陸域の大気-陸域水循環の現状把握・将来予測を行うことは、日本を含む全世界の人類にとって必要不可欠な研究です。
北極域の温暖化や北極海氷の縮小の将来予測をするためには、
水循環と物質循環を統合的に取り扱って研究する必要があります。
たとえば北極海氷縮小による大気中の水蒸気の流れ方や降水量の変動、北極域を取り囲む陸域の植生状態と凍土状態と河川水量など、様々なことを考慮に入れなければなりません。
しかし、北極海―大気―植生―凍土―河川系全体を扱う水循環・炭素循環の統合研究は皆無であったため、本研究は始まりました。
4つの研究班が相互に連携
・大気班
1) 水蒸気トレーサーモデルの改良
2) 降水の起源解析
3) 降水量解析
4) 大気循環解析
5) 大気水循環の将来予測
・統括班
1) 湛水域マップの作成・公表
2) 植生変化域マップの作成・公表
3) 国際連携の強化と成果普及
4) アドバイザー会議の主催
5) 国際シンポジウムの開催
・陸域モデル班
1) 陸域生態系モデルの改良
2) 凍土・河川モデルの改良
3) 多圏結合領域データ同化
4) 温室効果気体放出量マップの作成
5) 陸域水循環・植生・凍土の将来予測
・陸域観測班
1) 大気・植生・凍土・水文観測
2) 温室効果気体フラックス観測
3) 衛星データ解析
4) 植生・積雪・凍土状態把握
5) 陸域観測データの広域化

私たちが取り組む3つの「問い」
1.北極海氷の縮小によって大気-陸域水循環はどのように変動してきたのか?そして将来どのように変化するのか?
2.大気-陸域水循環の変動によって、湛水状態と植生状態はどのように変動するのか?
3.そして、温室効果気体(メタン ・ 二酸化炭素)放出量は、将来どの程度増加するのか?
研究の流れ

上記3つの「問い」に答えるために、
大気水循環・陸域水循環・植生動態・凍土表層状態
を数値的に表現する統合モデルを開発・改良をします。
そして過去から将来に至る北ユーラシアの大気-陸域水循環を計算し、
統合モデルの不確実性を低減するために、長期観測データが必要不可欠な東シベリアとモンゴル北部において、大気・植生・凍土・水文観測や温室効果気体フラックス観測を行います。
衛星リモートセンシングデータを活用して観測データを広域化し、統合モデルの計算結果の検証材料とすることで統合モデルを改良し、北ユーラシアの湛水域時系列マップと植生変化域時系列マップを作成、そして温室効果気体の放出・吸収量の時空間変動を推定します。
研究対象地域
ウラル山脈以東の北ユーラシア
(特に、東シベリアとモンゴルからなる北東ユーラシア)
永久凍土荒廃が進行してサーモカルスト湖沼が拡大・縮小するとともに、
森林火災を含む形で植生状態が大きく変化しています。

(5年ごとに、同じ季節で同じ場所を撮影。Fedrov,Hiyama et al.2014より)
研究の特徴
水蒸気トレーサーモデルによって、
・北極海の蒸発水起源の大気水蒸気の挙動
・陸域の蒸発散水起源の大気水蒸気の挙動 が明らかになり、
それらが気候変動と陸域(森林火災を含む植生状態や積雪面積)の変化によって、どのように変化していくのか、が判明します。
河川モデルのトレーサー実験によって、
・北ユーラシアにもたらされた降水が陸水貯留量と河川流出量を介してどのように北極海に流れ込むのか
・凍土中の地下氷の融解水が陸水貯留量と河川流出の変動に対してどの程度寄与しているのか を調べます。
この研究は、気象学・気候学・水文学・凍土学・生態学が協働することで科学的知見を創出するため、世界に類を見ない、非常に画期的なものなのです。
