第20回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2022年2月2日(水) 10:30〜12:00

発表者
田代悠人(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

題 目
アムール川で観測された1995-1997年の溶存鉄高濃度の原因 -永久凍土融解の可能性-

要 旨
 世界でも有数の豊かな海として知られるオホーツク海の高い基礎生産は、アムール川が陸域から輸送してきた溶存鉄(dFe)によって大きく支えられている。そのため流域内の農地開墾といった環境変化とアムール川のdFe濃度の関係性の把握は以前から重要視されてきた。アムール川(本流)では1995年から1997年にかけて非常に高濃度のdFeが観測され、流域内の土地利用変化や流量減少による濃縮だけでは説明できない現象が生じた。この現象の原因は現在でも解明されていないが、1990年代に高温年が連続したことに加え、高濃度のdFeが多くの支流河川でも確認された流域規模の現象であったことから、アムール川流域内に広く分布する永久凍土が融解し、そこに蓄積されていた鉄や有機物が嫌気的な環境下で可動性を増し、大量のdFeが生成し河川に流出したという仮説が提唱されている。ただしこの仮説は提唱されているだけで、実際に気候データ等を利用した形で検証されていない。仮に永久凍土融解がアムール川のdFe濃度に影響しているとしたら、将来予想される更なる永久凍土融解はアムール川からオホーツク海へのdFe供給量に影響し、結果としてオホーツク海の基礎生産や水産資源にも影響する可能性がある。そこで本研究では、アムール川流域における年平均気温と7-9月の正味降水量を1960年から2000年まで(約40年間)解析し、アムール川のdFe濃度の長期変動との相関を調べた。本発表ではその解析結果を示すとともに、永久凍土融解がアムール川のdFe濃度を上昇させた可能性とそのメカニズムについて議論する。
 本研究は鉄の物質循環に焦点を当てるものだが、本発表では水文気候学的な内容がメインとなる。アムールとシベリアとの共通点として永久凍土の存在があり、永久凍土帯における気候-水文-物質循環のつながりの理解は、今後ますます重要になると考えられる。そこで本発表の最後において、永久凍土帯における水・物質循環の現状や本研究の水・炭素循環への応用について簡単に紹介したい。