第25回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2022年8月3日(水) 10:30〜12:00

発表者
金森大成(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

題 目
シベリア三大河川流域における夏季降水量の数十年規模変動

要 旨
 シベリア域の夏季降水量の変動は、三大河川流域(オビ川、エニセイ川、レナ川)からの河川流出量の変動に影響を与え、近年これらの流域では多雨年や乾燥年の頻発に伴う河川流出量の大きな変動が生じている。多雨年についてはユーラシア大陸側の北極海における海氷縮小の影響が報告されている。一方、数十年規模の降水量変動も大きく寄与していることも示唆されている。しかしながら、シベリア域における数十年規模での夏季降水量の変動についてはほとんど研究例が無く、地球温暖化との関係も明らかになっていない。そこで本研究では、シベリア三大河川流域の長期降水量データセットを用いて、十年〜数十年規模の夏季降水量の時空間変動と大気循環場の変動との関係を明らかにすることを目的とした。1901-2020年(120年間)の夏季降水量の時系列解析から、オビ川流域では20–40年周期の変動が1950–1970年代に優位に卓越していた。エニセイ川流域では45–90年周期の変動が全期間を通して優位に卓越していた。レナ川流域では1970年代以降、30年にピークを有する20–40年周期の変動が優位に卓越していた。1958–2020年の再解析データを用いて、1970年代以降のレナ川流域における夏季降水量の20–40年周期変動と大気循環場との関係を調べた結果、20–40年周期の変動に伴い、北大西洋から北太平洋にかけて、65–75N°に沿った波列構造が確認された。この降水量変動をもたらす波列構造は、夏のPDOに伴い、ユーラシア大陸上に見られる空間構造と似ており、両者の関係性が示唆された。特に、レナ川流域における20–40年周期変動に伴う多雨年は、負のPDOに対応しており、オホーツク海付近が統計的に有意な高気圧偏差になっていた。また、レナ川流域の近年の顕著な多雨年は、20–40年周期の変動に伴って発生しており、1990年以前の同周期に伴う多雨年と比較すると、AMOに伴う45–90年周期の変動が正の影響を及ぼしたことにより起こっていることが明らかになった。一方、両者の比較から、北極海氷縮小は大きく影響していない可能性が示唆された。                   

第24回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2022年7月6日(水) 10:30〜12:00

発表者
水落裕樹(産業技術総合研究所)

題 目
光学データとマイクロ波・気象データの統融合によるwall-to-wallな中分解能湛水・植生マップの作成

要 旨
 広域の水・炭素循環の時空間動態の把握や、陸面モデルの検証/入力に用いる上で、長期衛星観測に基づくwall-to-wallな湛水・植生マップの作成は有益である。周北極域を含む広域をカバーした、湛水・植生に関わる既存の主題図は、提供データサイズや観測・解析コストの限界から、時間分解能と空間分解能のどちらかを犠牲にして提供されることが多く、上述の目的に用いる上では制約がある。そこで本研究では、中分解能光学衛星データMODISと、広域のマイクロ波データや気象データ等を機械学習(random forest)により統融合し、15年間にわたるwall-to-wallな中分解能湛水・植生マップの作成を試みる。
 まずテストサイト上で、MODISから計算した湛水指数(NDWI), 植生指数(NDVI)の予測に資する広域データの特徴量を調べ、MODISの欠測を機械学習により補間した。精度検証によれば、春の雪解けによる河川増水などの急激に時間変化するイベントを除き、湛水指数としては平均バイアス-2.4%, RMSE14.7%程度(いずれもNDWIに占める相対値)、植生指数では平均バイアス-12.1%, RMSE19.9%程度の精度で欠測の補間が可能であった。
 これらの結果を踏まえ、統融合処理を東シベリア全域に拡張しつつ、データセットの整備、特徴量の見直しおよび機械学習による計算と検証を実施中である。解析期間はデータセットの入手可能性を踏まえ2003-2017年とし、計算資源の効率化のため、マップ投影法の変更を含むアルゴリズムの見直しを実施した。本発表では一部地域でのマップ作成の現状について述べ、最終プロダクトのイメージについて議論したい。

第23回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2022年6月8日(水) 10:30〜12:00

発表者
中井太郎(国立台湾大学)

題 目
東シベリアカラマツ林における凍土融解深の空間変動特性の確率的表現

要 旨
 永久凍土地域の土壌の融解深は、小面積でも空間的に不規則に分布する。東シベリアのカラマツ林では、土壌の過湿にともなって衰弱・枯死した個体が凍結面の谷部分に集中していたことが報告されており、凍結面の微地形をモデル化できれば将来気候条件下でのカラマツの枯死のリスク評価に貢献できると考えられる。しかし、融解深の空間分布を物理モデルで表現することは難しい。そこで本研究では、東シベリアのスパスカヤパッドおよびエルゲイ研究林を対象として、融解深の空間分布特性を確率論的に表現することを試みた。
 実測した融解深は、どちらのサイトでも空間的に不規則に分布していたが、特に活動層厚(融解深の季節最大値)の空間変動パターンは各年でほぼ変わらなかった。また、両者を比較すると、スパスカヤパッドで各測定点の活動層厚の年々変動がより小さいことが分かった。これは、この地域の森林土壌に存在が認められている遷移層によって、スパスカヤパッドの最大融解深が制約されているためと考えられた。
 両サイトの融解深の累積確率分布は、ガンマ分布を用いて表現できた。ガンマ分布は形状母数と比率母数の二つで表現されるが、どちらの母数も平均融解深に依存して増加することが分かった。この関係から、比率母数の平均融解深への依存性を三段階で表現するモデルを提案した。エルゲイでは比率母数が定数でも十分に融解深の分布特性を表現できたが、スパスカヤパッドでは比率母数が平均融解深に対して増加する効果を考慮する必要があった。スパスカヤパッドでは遷移層が最大融解深を制約することで、融解期後期の融解深の分布範囲も制約を受けて狭められると考えられた。

第22回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2022年5月11日(水) 10:30〜12:00

発表者
伊藤昭彦(国立環境研究所)

題 目
北方湿原からのメタン放出に関するモデル推定

要 旨
 メタンは温室効果ガスおよび短寿命気候駆動因子(SLCF)として注目されており、そのグローバルな収支に関する研究が進められている。北方湿原は、主要な自然起源メタン放出源の1つと考えられているが、高精度にその総量を評価することは未だに困難である。湿原からのメタン放出量について、プロセスベースのモデルによる研究例を紹介する。湿原湛水域分布、地下水位、温度、植生などの条件に基づいてメタンの生成・酸化を計算し、大気への正味放出量に関する広域推定を実施した。近年の北方湿原(60度以北)におけるメタン放出量は、約12 Tg CH4 yr–1と推定され、植物経由および気泡による放出がその大部分を占めていた。このようなモデル推定について、大気観測および地上観測と比較を行うことで検証を行った例を紹介する。また永久凍土融解に伴う放出などの今後重要性が高まる可能性がある要素について研究課題や、新しい湿原湛水域マップなど本プロジェクトによる高度化に関して議論を行う。

第21回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2022年4月6日(水) 10:30〜12:00

発表者
福富慶樹(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

題 目
夏季の北ユーラシア上で発達する総観規模波動擾乱の構造と性質についての予備的解析

要 旨
 北ユーラシア域の代表的な降水システムは前線を伴う温帯低気圧である。この地域には、北緯65~75度付近に北極前線帯(AF)が、北緯50~60度付近に寒帯前線帯(PF)が存在し、長大な降水帯が形成されることで、北極海への河川淡水流出や北方林の維持に寄与している。温帯低気圧の発達を担うのは、約1週間周期以下の総観規模波動擾乱(傾圧不安定波)であるが、広大な北ユーラシア域における総観規模波動擾乱の性質と力学については、これまで十分に理解されていなかった。そこで、過去40年間の夏季(JJA)のデータ解析により、総観規模波動擾乱の統計的分類を試み、降水システムのタイプ別の構造と性質を明らかにすることを目的に研究を行った。現在、大気再解析データ(JRA-55)と降水解析データ(MSWEPv2.8)を用いたデータ解析を進めている。本発表では、EEOF解析と合成図解析を適用して波動擾乱の構造を特定したので、その途中経過を簡単に紹介する。また、降水長期変動に関する研究の経緯についても簡単に紹介する。さらに、総観規模擾乱のタイプ別の発達過程に寄与する背景基本場の構造と力学的役割の差異や、それぞれのタイプに対応するストームトラック活動度の長期変動と背景基本場の変化との関係を調べることで、降水経年変動の駆動源を探索することについての今後の展望を議論したい。
 今回は予備的データ解析の結果として北極前線帯(AF)タイプと寒帯前線帯(PF)タイプの総観規模波動を抽出し定義した。AFタイプは北緯70度付近に、PFタイプは北緯55度付近を中心に、波列が北大西洋域から発達開始し、ユーラシア大陸上を増幅しながら東進して北太平洋に向けて衰退していくものである。これらの波動擾乱の伝播に伴う下層温度場や降水変動等を示し、それらの特徴や違いを述べる。

第20回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2022年2月2日(水) 10:30〜12:00

発表者
田代悠人(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

題 目
アムール川で観測された1995-1997年の溶存鉄高濃度の原因 -永久凍土融解の可能性-

要 旨
 世界でも有数の豊かな海として知られるオホーツク海の高い基礎生産は、アムール川が陸域から輸送してきた溶存鉄(dFe)によって大きく支えられている。そのため流域内の農地開墾といった環境変化とアムール川のdFe濃度の関係性の把握は以前から重要視されてきた。アムール川(本流)では1995年から1997年にかけて非常に高濃度のdFeが観測され、流域内の土地利用変化や流量減少による濃縮だけでは説明できない現象が生じた。この現象の原因は現在でも解明されていないが、1990年代に高温年が連続したことに加え、高濃度のdFeが多くの支流河川でも確認された流域規模の現象であったことから、アムール川流域内に広く分布する永久凍土が融解し、そこに蓄積されていた鉄や有機物が嫌気的な環境下で可動性を増し、大量のdFeが生成し河川に流出したという仮説が提唱されている。ただしこの仮説は提唱されているだけで、実際に気候データ等を利用した形で検証されていない。仮に永久凍土融解がアムール川のdFe濃度に影響しているとしたら、将来予想される更なる永久凍土融解はアムール川からオホーツク海へのdFe供給量に影響し、結果としてオホーツク海の基礎生産や水産資源にも影響する可能性がある。そこで本研究では、アムール川流域における年平均気温と7-9月の正味降水量を1960年から2000年まで(約40年間)解析し、アムール川のdFe濃度の長期変動との相関を調べた。本発表ではその解析結果を示すとともに、永久凍土融解がアムール川のdFe濃度を上昇させた可能性とそのメカニズムについて議論する。
 本研究は鉄の物質循環に焦点を当てるものだが、本発表では水文気候学的な内容がメインとなる。アムールとシベリアとの共通点として永久凍土の存在があり、永久凍土帯における気候-水文-物質循環のつながりの理解は、今後ますます重要になると考えられる。そこで本発表の最後において、永久凍土帯における水・物質循環の現状や本研究の水・炭素循環への応用について簡単に紹介したい。

第19回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2022年1月5日(水) 10:30〜12:00

発表者
近藤雅征(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

題 目
秋期の寒冷化がシベリア域炭素収支に及ぼす影響

要 旨
 数十年にわたる気候変動の影響は、シベリアの地域間で異なる側面を示してきた。永久凍土層の融解は、根腐れによって森林の立ち枯れを引き起こし、また、凍土に蓄積された高密度炭素が分解されることにより、大気へのCO2の放出が促進されると考えられる。気候変動が植生の生産性に及ぼすこの負の影響は、東シベリアで見られ始めており、将来、永久凍土層に立つ生態系に広く影響を及ぼす可能性がある。一方、永久凍土層が存在しない中央・西シベリアでは、温暖化により春期と夏期のCO2吸収がさらに増加すると予想される。しかし、秋期の温暖化が継続すると生態系呼吸によるCO2放出が促進され、その期間中、正味のCO2収支は放出に傾くと考えられる。
 シベリアでは気候変動の負の影響が現実のものになりつつあるなか、太平洋十年規模振動(PDO)とシベリア高気圧の影響を受けた継続的な秋期の寒冷化が2004年から2018年にかけて中央シベリアで発生した。この秋期の寒冷化は、中央シベリアにおける秋期のCO2放出を抑制し、正味のCO2収支を吸収に向かって増加させた可能性がある。これを踏まえると、温暖化によるCO2吸収の増加が顕著な春期と夏期、寒冷化によってCO2放出が抑制された秋期、の両面により、中央シベリアにおける2004-2018年間の正味のCO2吸収は顕著に増加したという仮説が成り立つ。
 この研究は、中央シベリアにおける近年の正味CO2収支に関する仮説の妥当性を調査する。中央シベリアにおける大気CO2観測と渦相関フラックス観測を使用し、秋期に焦点を当て、2004年の前後で季節的な大気CO2と正味CO2収支がどのように変化したのかを示す。

第18回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2021年12月1日(水) 10:30〜12:00

発表者
立花義裕(三重大学大学院 生物資源学研究科)

題 目
シベリア横断型波動に及ぼすアフリカサヘルの雲活動の遠隔影響

要 旨
 シベリア上空の亜寒帯前線帯の大気の大規模な停滞性の波動(シベリア横断型波動)が夏期に顕著になりつつある。この停滞性の波動は南北流を伴い、南からの暖湿空気塊の流入や北極海からの水蒸気流入を促進することから、シベリアの水循環を理解する上で重要である。この波動はオホーツク海高気圧や、日本の猛暑にも関連し、さらにヨーロッパの猛暑や高緯度域の森林火災にも影響を及ぼす。今年の夏(2021年)や2010年猛暑、2018年の西日本豪雨や史上最高の猛暑年もこの波動が顕著であった。我々はこのシベリア横断型波動の発生原因に関する説を発表した。その説とは、アフリカサヘルに広域に降雨をもたらす対流性の大規模な雲活動に伴う潜熱解放のからの遠隔影響である。雨期のサヘル地域の降水が多い年ほど、シベリア横断型大気波動が顕著になる。これをデータ解析と簡便な数値模型実験で示した。また、夏の北極振動指数が正の状態の時(亜寒帯ジェット気流が強いとき)ほど、サヘルの遠隔影響に伴うシベリア横断型大気波動が顕著になることも示した。

第17回PAWCs月例オンラインセミナー

日 時
2021年11月10日(水) 10:30〜12:00

発表者
岡崎翌見(北海道大学大学院環境科学院)

題 目
モンゴルハンガイ山脈周辺における湧水枯渇の現状

要 旨
 北半球の永久凍土帯における気温上昇や降水量の変化に同調して、近年、北東ユーラシアの永久凍土帯南限域に位置するモンゴルでは、湧水の枯渇やその流出量の減少が顕在化している。湧水由来の水資源の喪失は、草原生態系だけでなく遊牧など人々の生業にも大きな影響を与えるため、その現況を把握することは重要である。
 モンゴル中央部のハンガイ山脈周辺にて1960-70年代に記載された湧水が現在も湧出し続けているか、すでに枯渇してしまったかを現地調査(2019年夏)と空中写真判読によって調べた。現地では120地点の現況を確認した。空中写真では計1548地点での湧水現況を判読したが、画像の撮影時期や解像度にばらつきがあるため、多くの地点でこの判読結果には不確実性が残った。そこで、現地調査や空中写真判読によって湧水の現況を明瞭に確認できた計264地点を用い、機械学習(ロジスティック回帰分析、ランダムフォレスト、SVM)によって、湧水枯渇とそれに関わる環境因子との関係を学習させモデル化することで、ハンガイ山脈全域における湧水の現況を予測した。
 3つのモデルの性能に大きな差はみられず、ROC-AUCの値は最高で0.78となった。全モデルの予測を考慮した結果、ハンガイ山脈周辺では約2割が現在枯渇している状態であることが示された。また、山脈の北東部において現在も活動している湧水が多く、西部のザウハン地区で枯渇傾向があることが示された。この結果は、予測する際に最も重要度の高かった特徴量がNDVIであったことから、植物が生育しにくい乾燥帯や高標高地域で、湧水が枯渇する傾向が示されたためと考えられる。
 今後は、説明変数を増やすなど、モデルの精度をより向上させることで、ハンガイ山脈における湧水の現況をさらに正確に示すインベントリーの作成を目指したい。